農薬散布ドローンの空域ルールと飛行手続き - 機体登録・リモートID・DIPS・飛行日誌まで

作成日:2026年6月11日更新日:2026年6月11日
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農薬散布ドローンの操縦者が押さえるべき航空法ルールは、大きく2段構えになっています。1段目は100g以上のドローン全てに共通する「機体登録」「リモートID」「規制空域」「特定飛行の禁止」。2段目は農薬散布のような特定飛行で追加必要になる「DIPS申請」「飛行計画の通報」「飛行日誌」。本記事ではこれらを体系的に整理し、実務で迷わないレベルまで落とし込みます。

航空法上のドローンの定義 - 100gが境目

まず航空法における「ドローン」の扱いから。

日本の航空法では 重さ100g を境目に扱いが変わります。

  • 100g未満 → 「模型航空機」扱い。比較的ゆるやか
  • 100g以上 → 「無人航空機」扱い。航空法の規制を受ける

農薬散布ドローンは機体だけで15kg前後、薬液を積めば20kg超えが当たり前。当然「無人航空機」カテゴリで、航空法のルールがフル適用されます。

ルールの全体像 - 2段構え

航空法のルールは以下の2段構えで理解するのが分かりやすいです。

1段目: 100g以上のドローン全てに共通するルール

  • 機体登録
  • リモートID搭載
  • 規制空域の順守
  • 特定飛行の禁止

2段目: 規制空域 or 特定飛行をしたい場合に追加で必要な作業

  • DIPSによる飛行許可申請
  • 飛行計画の通報
  • 飛行日誌の記録

農薬散布は、この2段目に完全に該当します。つまり1段目も2段目もフル装備でルールを守る必要があります。ハードルは高めですが、一つずつ整理すればクリアできます。

1段目 - 機体登録制度とリモートID

機体登録は2022年6月20日から必須化

2022年6月20日から、100g以上のドローンは 機体登録が必須 になりました。

  • 3年に1回の更新が必要(一度登録して終わりではない)
  • 必要情報: 機体の製造者・型式・シリアルナンバー、所有者・操縦者の氏名住所
  • 登録料: 900円
  • 登録完了後、「JU〜」から始まる 12桁の登録記号 が発行される

登録番号シールの貼付サイズ

機体に貼るシールにもサイズ要件があります。

最大離陸重量シール幅
25kg未満幅3mm以上
25kg以上幅25mm以上

農薬散布ドローン(例: DJI M4T12 は最大離陸重量28.2kg)は、基本的に 幅25mm以上の大きめシール が必須と思ってください。

リモートID - 不審機を識別する仕組み

リモートIDは 「機体から電波を飛ばして自分の機体番号を周りに知らせる装置」 です。

テロ対策や治安維持の観点で、不審なドローンを電波受信だけで識別できるように、100g以上の機体は原則として搭載義務 があります。

2種類のリモートID:

タイプ特徴該当機種(例)
内蔵型機体に最初から組み込み最近の機体の多く
外付け型別売の発信機を後付けM4T12、Phantom 4 など農業用機

農業用ドローン(M4T12やPhantom 4など)は外付け型が多数です。別途リモートID発信機を買って取り付ける必要があります。忘れると飛ばせません。

リモートIDの設定方法

設定は DIPS のスマホアプリで行います。

  1. DIPSアプリをスマホにインストール
  2. スマホとリモートIDを Bluetooth で接続
  3. アプリから登録番号(JU〜)をリモートIDに書き込む

一度書き込めばそのまま使い続けられます。機械が苦手でも画面の指示に従えばできる内容です。

リモートID搭載免除は3つだけ(農業ではほぼ該当しない)

  1. 2021年12月20日〜2022年6月19日の間に事前登録済みの機体
  2. あらかじめ届け出た特定区域内での飛行
  3. 係留飛行(30m以内の紐で繋いで飛ばす)

いずれも農業現場にはほぼ該当しません。農業でドローンを飛ばす以上、リモートIDは必須と覚えてください。

飛ばす前のチェック3点

機体登録とリモートIDの話をまとめると、現場ではこの3点が揃っていれば OK です。

  1. 機体に、幅25mm以上の登録番号シールが貼ってある
  2. 登録番号を書き込んだリモートIDが機体に設置されている
  3. 飛行中、リモートIDの電源が入っている

3番目を忘れがちです。シールやリモートIDを付けていても、電源OFFだと電波が出ません。「リモートIDの電源ランプ、点いてる?」を飛行前の点検項目に入れてください。

1段目 - 4つの規制空域

農薬散布ドローンの空域ルールと飛行手続き - 機体登録・リモートID・DIPS・飛行日誌まで - 解説図1

航空法では以下の4つの空域が規制されています。

1. 高度150m以上

  • 150m は 「地表からの高さ」(海抜ではない)
  • 高い山の上なら、山の地表から150mまでOK
  • 高層ビルや鉄塔の30m以内なら、地表基準で150mを超えてもOK(点検用途の特例)

農業現場で散布高度が150mを超えることはまずないので、通常は無関係です。

2. 空港・ヘリポート周辺

「空港の近くは全部ダメ」ではなく、飛行機やヘリが実際に通る空間だけが制限されます。3種類の制限面があります。

  • 進入表面: 滑走路の延長線上の斜めゾーン(離着陸の通り道)
  • 転移表面: 滑走路の横に広がる斜めゾーン
  • 水平表面: 空港上空の一定高度内

佐賀空港の例(農業ドローンなら実質OK)

制限面計算結果
水平表面空港標点+45mまで+45m
転移表面滑走路から100m地点で 100÷7+15m まで
進入表面滑走路から1000m地点で 1000÷50+20m まで

農薬散布の飛行高度は数mレベルなので、佐賀空港では何も考えずに使えます。

主要空港は要注意

新千歳、成田、羽田、中部、伊丹、関空、福岡、那覇などの主要空港は「延長進入表面」「円錐表面」が追加され、規制エリアが広範になります。大型空港の近くで飛ばすときは必ず事前確認してください。

3. 人口集中地区(DID)

DID(Densely Inhabited District)= 国勢調査で 人口5,000人以上・人口密度 4,000人/km²以上 の区域が連なるエリア。ざっくり言うと 市街地・住宅密集地 です。

4. 緊急用務空域

災害時などに、消防・警察・自衛隊のヘリが飛び交う場面で 一時的に指定される空域。民間ドローンの飛行は禁止されます。

1段目 - 特定飛行(6つの禁止飛行方法)

農薬散布ドローンの空域ルールと飛行手続き - 機体登録・リモートID・DIPS・飛行日誌まで - 解説図2

以下の6つの飛ばし方は原則禁止です。

  1. 夜間飛行
  2. 目視外飛行(操縦者から機体が見えない)
  3. 人・物件との距離が30m未満
  4. イベント上空(人が集まっている場所)
  5. 危険物の輸送
  6. 物件の投下

農薬散布は 5・6 の両方に該当する「ダブル特定飛行」です。

  • 薬液を空から落としている → 物件投下
  • 農薬は法律上の危険物が多い → 危険物輸送

つまり農薬散布は、原則禁止の特定飛行を2つ同時にやっている行為。次章の DIPS 申請で許可を取らないと違反になります。

その他の基本ルール

  • 飲酒した状態での飛行 → NG(罰則は重い)
  • 飛行前点検
  • 衝突予防
  • 他人に迷惑をかける飛行の禁止

航空法以外の法律・条例 - 見落としがちなポイント

ドローンに関係する法律は航空法だけではありません。

罰則規模

違反内容罰則
航空法違反50万円以下の罰金
飲酒飛行1年以下の懲役 or 30万円以下の罰金
飛行日誌不携帯10万円以下の罰金

その他関係する法律

法律内容
民法私有地上空は土地所有者の権利が及ぶ。他人の土地上で飛ばすなら所有者の許可が必要
道路交通法公道で離着陸して交通に影響を与える場合、警察署の許可が必要
プライバシー関連カメラ撮影でプライバシー侵害・個人情報保護法違反のリスク
電波法機体・送信機に 技適マーク が必要。海外輸入機体は要注意

自治体の条例

国の法律ではOKでも、地元の条例でNGというパターンが全国にあります。

例: 佐賀市では、公園や運動場での飛行が禁止

飛ばす場所の自治体ルールも必ず確認してください。「航空法だけ守ればOK」ではない、と覚えておきましょう。

2段目 - DIPS による飛行許可申請

農薬散布ドローンの空域ルールと飛行手続き - 機体登録・リモートID・DIPS・飛行日誌まで - 解説図3

ここからは、農薬散布などの特定飛行をする場合に 追加で必要になる作業 の話です。

DIPS とは

DIPS(ディップス) は国土交通省が運営するオンラインシステム。ドローン関係の手続き(機体登録・飛行許可申請・飛行計画通報)を一括で行えます。

「ドローンの手続きといえばDIPS」と覚えてしまってください。

都度申請 vs. 包括申請

申請は2パターンあります。

申請方式内容農薬散布での選択
都度申請飛ばすたびに1件ずつ申請面倒
包括申請1年間分をまとめて申請こちらを選択

農薬・肥料散布に関連する特定飛行は包括申請が可能です。迷わず包括申請で行きましょう。年に1回の手続きを済ませておけば、その1年間は追加の許可申請なしで散布作業ができます。

2段目 - 飛行計画の通報(毎回必要)

許可申請は年1回でOKですが、飛行計画の通報は飛行のたびに毎回 必要です。

  • DIPSの画面からフォーム入力
  • 「いつ、どこで、どのくらいの時間飛ばすのか」を事前通報
  • 登録した計画はDIPS上で誰でも閲覧可能

他のドローンとの重複回避

DIPS上で他のユーザーの飛行計画も確認できます。

  • 同じエリアで飛行計画が重複 → メール・プッシュ通知でアラート
  • DIPS上で相手の連絡先が分かる → 直接調整可能

「知らないうちに同じ場所で別のドローンが飛んでいた」事態が起きないよう、仕組みが整えられています。

2段目 - 飛行日誌(3種類)

特定飛行をする場合、以下の3種類の記録を 携帯義務 があります。

飛行日誌の種類記録タイミング内容
1. 飛行記録飛行のたびいつ・どこで・どのくらい飛ばしたか
2. 日常点検記録飛行前プロペラ・バッテリー等の点検結果
3. 点検整備記録飛行20時間ごと定期整備の記録

これら3種類を携帯していないと、航空法により10万円以下の罰金の可能性があります。現場で求められたときにすぐ出せる状態にしておきましょう。

便利なアプリ「ドローンノート」

紙で管理するのはかなり面倒です。ドローンノート(クラウド型の無料アプリ)が便利です。

  • スマホから手軽に飛行日誌を記録
  • CSVエクスポート、自動バックアップ
  • 他端末とのデータ共有

紙管理の紛失リスクもなくなります。

【おまけ】国家資格と型式認証の現実

第3章の最後に、ドローン国家資格についての現実を整理しておきます。

結論: 国家資格がなくても農薬散布はできる

一等・二等無人航空機操縦士という国家資格がありますが、国家資格なしでも農薬散布は可能です。DIPSで許可申請を出せばOKです。

機体認証が鬼門

国家資格を 実際に活用する には「資格」と「機体認証」の両方が必要です。問題は機体認証のほう。

  • メーカーが 型式認証 を取っていれば、設計・製造過程の審査が省略可能
  • しかし 農業用ドローンで型式認証を取得した機体は 0 機

つまり、農業用ドローンで国家資格を活用するには、機体認証の審査を全部自分で通す必要があり、時間・コスト的に現実的でありません。

無理に取る必要はない

  • 一等: 立入規制なしの有人地帯目視外飛行が可能(物流など特殊用途向け)
  • 二等: DID / 目視外 / 夜間 / 30m未満 の許可申請を省略できる

ただし二等の場合、申請の手間が省けるだけで、許可申請を出せば二等なしでも飛行は可能。機体認証が必須というハードルを考えると、現時点で農家・農業事業者が無理に取りに行く必要はありません。

型式認証を取得した農業用ドローンが出てくれば状況は変わります。制度としての存在と、自分に必要かの判断基準だけ押さえておけば十分です。

まとめ - フローチャート

農薬散布ドローンを合法的に飛ばすまでの流れを整理:

【一度きりの作業】

  1. 機体をDIPSで登録(900円、3年更新)
  2. 登録番号シールを機体に貼付(幅25mm以上)
  3. リモートID発信機を購入・設置・書き込み
  4. DIPSで 包括申請(農薬・肥料散布 特定飛行、1年分)

【毎回の作業】

  1. 飛行前に DIPS で飛行計画を通報
  2. 日常点検 → 点検記録
  3. 飛行 → 飛行記録
  4. 20時間ごとに点検整備記録を追加

【常時】

  • 飛行日誌3種類を現場に携帯
  • リモートIDの電源ON確認
  • 自治体条例の確認

書き出すと項目は多いですが、一度仕組みを作ってルーティン化すれば、日常運用の負担はそこまで重くありません。項目ごとに慌てずに潰していけば、堂々と散布業務ができる状態になります。