農業現場でのドローン活用 - 散布・施肥・直播・リモートセンシング・鳥獣害対策

作成日:2026年6月2日更新日:2026年6月2日
農業現場でのドローン活用 - 散布・施肥・直播・リモートセンシング・鳥獣害対策のイメージ画像

農業ドローンは「農薬を撒くもの」というイメージが先行しがちですが、実際には施肥・水稲直播・リモートセンシング・鳥獣害対策と、活用の幅はどんどん広がっています。この記事では、現場で実際に使われている主要な活用シーンを、それぞれの仕組みと現実的な運用感まで含めて解説します。

農薬散布 - ドローン活用の本丸

ドローン農業の代表格が農薬散布です。機体にタンクとノズルを取り付けて、上空から薬液を散布します。

作業時間の比較 - 動噴の7〜8倍速

1haあたりの散布時間の目安です。

方法所要時間(1haあたり)
動力噴霧器(動噴)約 122 分(2時間近く)
ドローン約 16 分
有人ヘリ約 13 分

ドローンは動噴と比べて 約7〜8倍のスピード。有人ヘリにはわずかに及びませんが、体力的な負担が格段に違います。

ヘリの運用コストや手配の手間を考えると、個人農家・集落レベルでの実用性は圧倒的にドローンが勝ります。

ピンポイント散布とリモートセンシングの組み合わせ

ドローン農薬散布のもう一つの強みが リモートセンシングとの連携 です。

  • 事前にドローンで圃場を撮影
  • 画像から病害虫の発生エリアを特定
  • そのエリアだけにピンポイント散布

必要な場所だけに撒けるので、農薬使用量を減らしつつ防除効果は上げる、という理想の形になります。

ただし、現場での実用度はまだ発展途上というのが正直なところです。「技術としてこういう方向に進んでいる」という理解で十分。まずは圃場全体の一斉散布を基本にしつつ、必要に応じてピンポイント化を検討していく、という姿勢が現実的です。

施肥 - タンク交換で粒剤に対応

農薬散布のときは液剤タンクを使いますが、タンクを粒剤用に取り換えれば、そのまま施肥ができます。

粒剤タンクの中に肥料を入れて、回転する散布機構の 遠心力で粒を飛ばす 仕組みです。

可変施肥 - リモートセンシングの実用例

施肥こそ、リモートセンシングとの組み合わせが生きる分野です。

  1. ドローンで事前に圃場を撮影
  2. 葉色(葉の緑の濃さ)から窒素含量を推定
  3. 窒素が足りないエリアは多めに、十分なエリアは減らす

この「場所ごとに施肥量を変える」ことを 可変施肥 と呼びます。圃場全体に均一に撒くのではなく、必要な場所に必要な分だけ施肥できるので、コスト削減+収量/品質の均一化に効果があります。

可変施肥は農薬散布のピンポイント化よりも現場実装が進んでいる分野です。肥料コストの削減と収量向上の両方に効く上、判定基準(葉色→窒素量)が比較的シンプルで再現性があるのが理由です。

水稲直播 - 田植えを省略する

ドローンで水稲の種籾を直接撒く 直播(じかまき) も広がりつつあります。田植え作業を丸ごと省略できるので、省力化効果は非常に大きい。

オプティムの「打込条播」方式

オプティム社の「打込条播サービス」では、種籾をドローンから田面の土に打ち込みます。

  • 土の中に打ち込むので 鳥害を抑えられる
  • 条(すじ)状に均一に播ける

ただ、この方式はまだ実用的とまでは言えない段階です。

実用的なのはコーティング播種

現場で主流になってきているのは、種籾に べんモリコーティング鉄コーティング を施してから撒く方式のほうです。各県の試験場でも、こちらの研究が盛んに進んでいます。

作業時間

時速18kmで飛行、種子・バッテリーの補給を含めても 1反あたり6分。参考として乗用播種機だと1反あたり20分ですから、かなり速いですね。

リモートセンシング - マルチスペクトルカメラの世界

ここからは、先ほどから何度か登場しているリモートセンシングについて、仕組みをもう少し詳しく見ていきます。

リモートセンシングとは、上空から圃場を撮影して、そのデータを解析することで作物の状態を読み取る技術のことです。ポイントは マルチスペクトルカメラ という特殊なカメラを使うこと。

何が分かるのか

マルチスペクトルカメラで撮影すると、以下のような情報が推定できるようになります。

  • 窒素含量(→ 穂肥の診断)
  • たんぱく含量(→ 食味の推定)
  • 収量の予測
  • ウンカ等の被害状況

つまり、圃場を歩き回らなくても、上空からの撮影だけで生育診断ができてしまう、というわけです。

光の波長と植物 - なぜカメラで分かるのか

農業現場でのドローン活用 - 散布・施肥・直播・リモートセンシング・鳥獣害対策 - 解説図1

前提として、太陽光には人間の目に見える 可視光 以外にも、紫外線や赤外線など、さまざまな波長の光が含まれています。

ここで大事なのが:

  • 植物は緑の波長の光を多く反射する → だから葉っぱは緑に見える
  • 植物は近赤外線(IR)を大量に反射する → 人間の目には見えないが、これがリモートセンシングの鍵

普通のカメラの仕組み - RGB 3色で色を作る

普通のカメラは、光の三原色である R(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー) の3つの色の光を捉えます。

それぞれ 0〜255 の強さで「この色がどれくらい入っているか」を数値で記録し、1ピクセルごとに3色を混ぜ合わせて色を再現しています。

色の例RGB値
茶色R=110, G=110, B=40
濃い緑R=15, G=136, B=51

スマホで撮る写真も、基本はこの「RGBの混ぜ合わせ」です。

マルチスペクトルカメラ - RGBに「IR」をプラス

農業現場でのドローン活用 - 散布・施肥・直播・リモートセンシング・鳥獣害対策 - 解説図2

マルチスペクトルカメラは、RGB の3つに加えて IR(近赤外線) の波長も捉えられます。

元気な植物ほど、近赤外線の反射が強くなる。つまり IRの数値が高い=植物が元気

普通のカメラでは撮れない「IRの波長」を撮れるようになったことで、人間の目では見分けられない植物の健康状態の違いまで数値化できる、というのがマルチスペクトルカメラの強みです。

NDVI - 植物の元気度を数値化する指標

農業現場でのドローン活用 - 散布・施肥・直播・リモートセンシング・鳥獣害対策 - 解説図3

マルチスペクトルカメラで得られたデータから、植物の元気さを数値化する指標が NDVI(Normalized Difference Vegetation Index, 正規化差植生指数)です。

計算式はシンプル:

NDVI = (IR - R) / (IR + R)
  • IR = 近赤外線の値
  • R = 赤の値

元気な植物は IR をたくさん反射する一方、赤い光(R)は光合成に使うためあまり反射しません。なので 元気な植物ほど IR が大きく、R が小さくなる → NDVIが高くなる わけです。

NDVI の値は -1 〜 1 の範囲:

  • 1 に近い → 植物が元気(NDVI画像では
  • 0 付近 → 元気がない(NDVI画像では灰色
  • 負の値 → 水や裸地など、植物がほぼない

例:

  • IR=200, R=15 → NDVI = 0.86(非常に元気、画像は白)
  • IR=100, R=110 → NDVI = -0.05(植物なし/不健康、画像は灰色)

AI解析サービスの登場 - スカイマティクス「いろは」

マルチスペクトルカメラの画像を、さらに AI で解析するサービスも出てきています。

代表的なのが スカイマティクス社の「いろは」。ドローンで撮影した画像をAIが自動で解析し、以下を行います。

  • 生育診断
  • 欠株診断
  • 収量予測
  • 雑草診断

人の目で圃場を歩いて判断していた作業を、ドローンで撮影してAIに渡すだけで済むようになる。農業の効率化という点で、非常に大きな可能性を持った技術です。

りんごの受粉 - ミツバチ減少への対応

少し変わった活用事例として、ドローンによるりんごの受粉 の研究も進んでいます。

東光鉄工 × 青森県の名久井農業高校 が共同で取り組んだ事例では、花粉を液体に溶かして、農薬散布と同じ要領でドローンから散布して受粉させる、という方法を試しています。

結果:

  • 受粉作業時間が 9割減少
  • 結実率には影響なし(手作業とほぼ同等)

りんごの受粉は、これまでミツバチや人手に頼っていた作業でした。ミツバチの減少や人手不足が深刻化する中で、ドローンが新たな選択肢になりつつあります。

鳥獣害対策 - 「撒く」だけでなく「調べる」

スカイシーカー社の取り組み事例として、鳥獣害対策へのドローン活用があります。

夜間の赤外線生息マップ

夜間に赤外線カメラを搭載したドローンを飛ばして、シカやイノシシなどの 生息マップ を作成します。

夜行性の動物は暗闇の中でも体温で赤外線カメラに映るので、どこに何頭いるかが正確に把握できます。

昼間の電気柵設置シミュレーション

昼間は通常のカメラで地形を撮影し、電気柵の設置シミュレーション に活用します。上空から地形を把握できるので、どこにどう柵を設置すれば効果的か、事前に計画を立てられます。

農業ドローンは「撒く」だけの道具ではありません。「調べる」という用途でも非常に強力です。生育診断も鳥獣害対策も、上空から広範囲を効率的に観測できるドローンならではの強みが活きる領域です。

動向 - ドローン登録農薬も散布面積も右肩上がり

最後に、農業ドローンの現在地を示すデータを紹介します。

  • ドローンに登録されている農薬の数 → 年々増加
  • ドローンでの散布面積 → 右肩上がり

つまり、使える農薬の選択肢が広がり続けているうえに、実際に現場でドローンを使う人も増え続けている ということです。

これからドローンを導入しようとしているタイミングは、まさに追い風が吹いている状況と言えます。

まとめ

本記事で紹介した農業ドローンの活用シーンを整理します。

カテゴリ内容実用度
農薬散布動噴の7〜8倍速、作業負担の大幅軽減★★★★★ 現場の定番
施肥(可変施肥含む)粒剤タンクで対応、葉色ベースで場所ごとに量を変える★★★★☆ 実用が進む
水稲直播コーティング種子方式が主流★★★☆☆ 研究段階多い
リモートセンシング / NDVIマルチスペクトル+AI解析で生育診断★★★★☆ 着実に普及中
りんご受粉作業時間9割減、結実率維持★★☆☆☆ 実証段階
鳥獣害対策赤外線で生息マップ、電気柵設計★★★☆☆ 自治体主導で広がる

散布だけでなく、データを取る 用途にもドローンの活躍は広がっています。自分の経営規模や作物との相性を見ながら、どの領域から取り入れるか検討してみてください。